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きき湯開発プロジェクト 第3回「人間の感性から正解のない答えを探せ」
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前回のあらすじ
 新しい入浴剤のコンセプトについて、各部門から厳しい条件が出された。その中でも「湧き上がる発泡」を実現させるために、研究・開発チームの妥協を許さない試作は続けられた。理想の発泡の見通しはついた。さあ、次は色だ。
温泉の転地効果を色に託す
 これまでも幾多の入浴剤を開発してきた研究・開発チームだが、湯に溶かした入浴剤の色を決定するのは、毎回頭を悩ませる仕事である。なぜなら「色」の好み、良し悪しには、科学的な研究の蓄積に加え、人間の感性が大きく影響するからだ。そして人間の感性には「正解」といえるものがない。どのような色にするか、正解のない答えを探す作業が始まった。
 入浴剤の色は、実際の天然温泉の色を再現するわけではない。しかし、イメージとして名湯と言われる温泉、温泉地のロケーションを発想の原点にしている。海、空の色はもちろん、温泉地そばを流れる清流、山野の植物、あるいは名産品の果物の色までもが参考にされる。それは家庭で入浴する際にも少しでも温泉で味わう転地効果を実現させたいという理由からだ。温泉の効用、それは湯の成分、泉質だけがなすものではない。たとえば温泉地の豊かな自然や静かな環境、澄んだ空気などが心身に計り知れない効果をもたらすのである。温泉地の環境にふれることで得られる転地効果である。家庭で入浴剤を使うときに、少しでも転地効果に近いものをもたらすためには、美しい湯の色と心地よい香りは不可欠なのである。
何種類もの浴槽と照明
 研究所には一般家庭と同じ浴槽がいくつも設けられている。机上の論理や実験だけでは得られないデータは、実物の浴槽から収集するのだ。入浴剤の色も、もちろん本物の浴槽に入れてさまざまな角度から肉眼で確認していく。
 湯の色は、浴槽そのものの色や材質、さらには浴室の照明の種類や明るさによっても見え方が異なる。一般に家庭の浴槽に多く使われているのは、アイボリーやブルーといった色である。材質面でいえば、強化プラスチックだけでも数種類、ホーロー、ひのき、ステンレス、人工大理石まである。浴槽の照明も白熱灯と蛍光灯では、湯の色の見え方はまったく違ってくる。さらに、照度つまり明るさの度合いという要素も加わってくる。一つの条件で最適な色だったとしても、条件が変わると適さない色になってしまうのである。
まぼろしとなった色
 「色」の開発にあたった担当者の頭の中には、色のイメージの原点として2つの温泉地があった。ひとつは「きき湯」開発のきっかけとなった豊富な炭酸泉の長湯温泉と、もうひとつは泥湯の別府温泉である。そこから、透明な青緑色と、乳白色のにごり湯の2種類が基本的な方向として採用された。実際、青や緑、乳白色は、これまでの製品化の蓄積からも基本的な色とされている。
 しかし、きき湯は3シリーズ。あと一つの色が決まらない。担当者は「いかにも天然温泉を再現した感のあるにごり系」を発展させたい、と考えた。緑色のにごり系、茶色のにごり系。担当者はさまざまな浴槽でこの2色の微調整を試み、照明を変えて何度も湯を覗き込んでいた。茶色系というのはあまり例のない色だが、温泉マニアを自認する担当者には不思議と魅力的な色であった。しかし、一般の消費者には通用するだろうか?ある程度の基本路線が決まると、社内モニターに色を見てもらうことになる。「いいじゃないか」という声が耳に入ってきた。「行ける!」担当者は心の中で叫んだ。
 ところがモニターの範囲が広まるにつれ、不評も多くなってきた。「色はやっぱりきれいな方がいい」「これは暗く感じる」などの声が上がり、担当者渾身の「茶色のにごり」は結局お蔵入りとなった。
 そして最終的に決まったのが「きき湯 食塩炭酸湯」の「乳緑色」だった。 「茶色のにごり」はやはり冒険だったのだろうか。担当者は製品化の後に語っている。「正解がないのだから、あらゆる可能性から探ることだけはこれからも続けていくつもりです」。
(次号に続く)
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