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きき湯開発プロジェクト 第4回「白い香りをつくりだせ」
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前回のあらすじ
 入浴剤の色を決めるのは、科学的な研究やデータの積み重ねに、人間の感性そのものが必要になる。データ、感性、研究者の思い入れのせめぎ合いを克服して色を決定した研究チーム。そして同時に進めていた「香り」の製品化には、ベテラン調香師がかつてないほど思考をめぐらせていた。
新製品「きき湯」のコンセプトが揃い始めた
 家庭で入浴する時でも、温泉に入る時のような転地効果を味わえるようにしたい。温熱効果や湯に含まれる成分での効用だけでなく、温泉地を訪れた時のような特別な気持ちにさせることが、入浴剤では大切なのである。この転地効果をもたらすためには、色と同様に心地よい香りも欠かせない。
 かつて、無色でにおいのない入浴剤をつくったこともあったが、さっぱり売れなかった。それはうなずけることである。自宅の浴槽の湯に入浴剤を入れる時のことを思い浮かべてみればよい。目に優しい色と同時に、さわやかで心が落ち着く香りが浴室に広がった瞬間、一日の疲れを癒すことができる期待が広がるのである。
 では心地よい香りとは何か。それは記憶に残る香りであり、その香りにはインパクトがなければいけない。インパクトがなければその香りのリピーターにならないのである。香りにインパクトをもたらす条件は、適度な強さ、嗜好の度合い、くせになることなどがある。この条件をブレンドするのである。
新製品「きき湯」のコンセプトが揃い始めた
 「きき湯」では豊かな発泡があるため、泡と一緒に湧き上がって、最初に鼻腔をくすぐる香りのインパクトは重要である。しかし、製品化に際しての重要なポイントがもう一つ示された。それは「入浴剤は香水とは違い浴室の中だけのものだ」ということである。これまでの入浴剤の開発でも必要な条件ではあったが、今回のプロジェクトでは発泡が収まった後も、浴室内で2時間は香りを保たせるようにしなくてはならない。それは、40℃という湯の中で試される条件を意味していた。
 研究所には、一般の家庭と同様の浴室がいくつも設けられている。研究チームのメンバーは、この小さな浴室でさまざまな計測などを繰り返すだけではなく、しばしば裸になって自らその浴槽に浸かっては肌で使用感を確かめる。この家庭の浴室との容積の中で、香りの微妙な強弱を調整するのである。調整するのは、香りを担当する調香師である。そして、調整に使うのは自分の嗅覚と感性だ。
 調香師は長時間にわたって嗅覚を酷使する。鼻の「利き」が鈍るとまったく別のにおいをかぎ、においの認識を新しくして、また浴室にこもるのである。
膨大な数の試作品
 香りのコンセプトも、色と同様に温泉地のロケーションから着想するが、温泉地の香りそのものをイメージとするわけではない。温泉地の香りといえば、例えば硫黄のにおいということになってしまうからだ。コンセプトから香りを具現化する作業は、これまで何度も入浴剤の香りを製品化してきたベテランの調香師でも非常に難しい作業である。
 今回の「きき湯」誕生プロジェクトでは、製品のひとつ「クレイ重曹炭酸湯」の香りを温泉地の湯けむりのイメージでとらえることになった。
 担当を命ぜられた女性調香師は、多くの温泉地を見てきており、湯けむりの情景の豊富なイメージは持っていた。やわらかく、あたたかく、ほっとするイメージ。しかしそれだけではインパクトに欠けると思った。
 インパクトがなくては製品化できない。初期段階でのいくつかの試作品は、ゴーサインが出なかった。彼女は、いったん理論やデータから離れて考えた。湯けむりの色から発想してみることことにしたのである。「白い香り」を作ろう。それは、清楚な白い花、体を元気づけてくれるミルク、一点の汚れもない微細なパウダー…。突然、香りのイメージが広がり、展開した。いくつも浮かんでくる香りのイメージを、頭の中にていねいに並べて、イメージで調香してみた。いけるかもしれない。
 湯けむりの香り、それはかつてない白い香りとして完成した。
(次号に続く)
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