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HOME 温泉メカニズム体験記 第4回 群馬県 四万温泉
 名湯の多い群馬県の中で、特に熱心なファンをもつ山里の湯。清流に沿って並ぶ温泉街は往時の湯治場の雰囲気を残しているように見える。静かな街と山あいを流れる渓流が湯治客の転地効果を高める。
※写真:四万川沿いに建つ河原の湯
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温泉街:古き良きの風情を残す一角もある

「積善館」元禄の湯:
昭和5年建築の浴場で
国登録文化財に指定されている
(写真提供:四万温泉協会)
 上越線から分岐したJR吾妻線の中之条駅は、遠くに高く低く山並が見えて、プラットホームに立っているだけで旅情を感じる。ここから広葉樹の山道をバスでゆっくりと登って行くと、川に沿って細長い温泉街が現れる。温泉街といっても、ホテルや旅館が数十軒あるだけで、きらびやかなネオンサインなどは見当たらない。しかし決してさびれているわけではなく、宿泊施設は中も外もきれいに整っている。ここは、古くからの湯治場の雰囲気を大切に残しながら、現代の温泉への需要に応えようとして、今のような趣のある街並になったようだ。
 温泉で健康を回復するための条件を科学的に考えた場合に、温かい湯につかる効果や温泉成分による体への効果のほかに、温泉地へ来ることそのものによる転地効果も重視されている。静けさ、きれいな空気、自然の景色は心理的にリラックスを与える効用があるというが、ここ四万温泉はそうした条件をたっぷりと満たしている。
 四万温泉の湯は、食塩泉が多く一部に硫酸塩泉があるが、飲用が盛んに行なわれているのも特長だ。細長い街のあちこちに飲泉所がある。ゆずりは飲泉所、塩の湯飲泉所、ほかに温泉協会の事務所前などにも設置されていて、どれもきれいに整備されている。
 湯量は豊富で飲泉所でもたくさん湧き出ているので、容器にくんでいく人も見かけるし、通りがかった人がすっと立ち寄って、ひしゃくでゴクッと飲んでは立ち去って行く光景も見られる。そんな地元の人に聞いてみると「仕事へ行く前に飲泉所で飲む」とのことだ。私も、何カ所かで飲んでみた。薄い塩味があり、何か非常にかすかな味のあるスープを飲んでいるようだ。くさみのようなものはまったくなく、おそるおそる口をつけたのだが、やはりゴクッと飲んでしまった。

御夢想の湯:
四万温泉の由来になったお湯

山口公園露天風呂:
川沿いにある露天風呂

上の湯:
和風作りの落ち着いた雰囲気

四万清流の湯:
町営の日帰り温泉。
自然も楽しめる
街には誰でも利用できる公共浴場がいくつもある
(上4点写真提供:四万温泉協会)
 それぞれの近代的なホテルあるいは伝統と格式のある旅館の風呂は、どれも個性的な工夫が凝らしてあり、しかもセンス良くまとまっているようだ。そうした風呂の魅力と同時に、地元の人たちが愛用している外湯、つまり共同浴場に入浴するのも楽しい。
 御夢想の湯、上の湯、河原の湯、山口露天風呂は、どれも入湯料は「志納」ということになっている。これは気持ちでどうぞということで、料金設定はない。山口露天風呂以外は午後3時で終了となり、この時間以降は地元の人専用となる。逆に言うと、朝9時から午後3時まではなるべく訪れた人たちにゆったりと使ってもらいたいという心づかいのあらわれだ。

河原の湯:
この小さな建物の中はほかほかと
温かい浴室だ

広くはないが石造りの清潔でぜいたくな外湯
 街の中心、バスの折り返し地点のある荻橋の下の河原に、文字どおりの河原の湯がある。言われなければそれとはちょっと分からない建物だが、こぢんまりとしてきれいだ。入ってみることにする。タオルやせっけんなどは備わっていないということなので、近所の雑貨屋さんで買う。お店の人は「河原の湯へお入りですね。不思議と湯冷めをしないお湯で、よく温まりますよ」と言う。
 男湯と女湯と左右に分かれた入口の手前側、男湯の扉を開けると、いきなり脱衣所になっていて服を脱いでいる男性がいる。4人も入るときゅうくつなくらいだ。すぐ向こうにガラス戸があり浴室がよく見える。中はそれほど広くはないが、湯気がこもって温かく秘密の洞窟に入ったようで楽しい。内装は美しい石造りでぜいたくな雰囲気だ。透明な湯がたっぷりと湯舟からあふれている。湯にはほとんど硫黄のにおいがない。湯につかると、なるほどすぐに体が温まる。出てまたつかる。3回くらいこれを繰り返すと本当に体が温まるのだが、熱い湯にがまんして入った時のような体が燃えるようなじっとりとした暑さではなく、何かやわらかく温まった気がした。
 風呂から出ると、自然に自分の表情がゆるんできているのを感じながら、バスに乗って樹影の濃い山道を下った。
COLUMN
 四万温泉は上州三名湯の一つとして草津、伊香保と並び称されているという。温泉の多い群馬県だけあって、どれも名湯でしかも雰囲気が随分と異なり、上州の温泉は「幅」が広いことを実感する。温泉地に行って、お湯に入る。欲張って朝から晩まで何回も入ることをせずに、多くの時間は景色をながめて風景を満喫する。湯治によって本来もたらされる効用を思い起こさせてくれる一つの名湯を知った。
(取材:岩間靖典)
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