温泉科学プロジェクト

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HOME 温泉ガイドデスク:温泉メカニズム体験記 第8回 大分県 別府温泉郷
「別府」は一つの温泉ではなく、別府八湯(はっとう)と呼ばれる8つの温泉郷を合わせた大温泉郷で、さまざまな特徴をもつ温泉が市内に点在している。今回はこれらの温泉郷の中からちょっと「濃い」お湯を体験してきた。
※写真:別府海浜温泉の砂湯。別府湾を望む絶景にある。ここも公共の砂湯。


鉄輪温泉の白池地獄
ホウ酸を含んだ食塩泉で、
噴出時は透明だが池に
落ちると白くなる

鉄輪温泉の血の池地獄
酸化鉄や酸化マグネシウムを
含んだ赤色の粘土が噴出している。
 別府温泉郷には、別府湾の沿岸から内陸の山地まで8つの温泉郷が広がっている。まず海岸沿いに亀川温泉、別府温泉、浜脇温泉がある。山すそには柴石温泉、鉄輪(かんなわ)温泉、観海寺温泉。そして山の中腹あたりに明礬(みょうばん)温泉、堀田温泉がある。
 これだけの一大温泉郷ができあがったのは、大分県中部と北部での古代の活発な火山活動による。別府温泉郷の背景にある鶴見岳や由布岳さらに奥にある久住岳などが、3万年ほど前に活発な火山活動をした山だ。そのために地下に「蒸気・熱水だまり」と呼ばれる場所ができ、それが地下水をあたためることで温泉になる。別府湾を望む山の中腹からは、あちらこちらに立ち上る白い湯気を見ることができる。

別府海浜温泉の砂湯
砂を掛けられた人たちは
身動きできずに汗が
出るにまかせる。

竹瓦温泉
神社か仏閣のような豪華な
木造建築は明治年間に
建てられて改築された。
 別府駅周辺の別府温泉。ここにそのシンボルともいえる市営の「竹瓦温泉」がある。ここの名物は、別府海浜温泉とともに公営では珍しい砂湯。入口から見て休憩場所の左側にある、木わくのガラス戸にペンキで書かれた「砂湯」の文字が何やら「濃さ」を感じさせる。砂湯に入るには、通常の入湯にも使える780円の「砂掛券」を買う。予約ができないため、この時は1時間ほど待って呼ばれた。

砂湯の切符
砂掛券は別府市役所の発行。
この券を握りしめて呼ばれるのを待つ。
 おそるおそるガラス戸を開けると、中は高い天井と掘り下げたような砂場で、広い木造の空間が不思議な感じを与える。服を脱いで充分に掛け湯をするように指示される。指示しているのは係りの「砂掛けさん」だ。階段の下の黒い砂場に、砂をかき寄せる道具を持った砂掛けさんに言われると、すべてを任せてしまう気分になる。
 砂は熱い温泉水のプールに敷き詰められているようになっていて、その砂の上に横になる。温泉水はナトリウム・マグネシウム−炭酸水素塩泉だ。砂掛けさんがどんどん温かい砂を掛けてくれるが、熱いというわけではない。顔を残して全身に砂が掛けられると、その重みで身動きができなくなるが、体の隅々に地下からの温かさが伝わってくるようで実に気持ちがいい。砂に入っている時間は10分から15分間と決められている。
 そして本当に10分たつ頃には汗をいっぱいかく。そうしたら今度は自分で砂をかき分けて砂から出る。充分に砂を洗い落として、浴槽につかると、体がふわーっと軽くなったようだ。

砂湯の入口
砂湯の浴室内はあたかも
木造の体育館のような
不思議な空間。

竹瓦温泉内の休憩所
レトロな雰囲気は作られた
ものではなく、ありのままの姿。

明礬温泉の花小屋
「湯の花」を採取するための
小屋で、一角にいくつも建っている。
 車で明礬温泉へ登り、集落の中を歩くと湯煙の中にわらぶきの小屋がいくつも建っている。これが有名な「湯の花小屋」というもので、噴き出した温泉の成分が自然結晶したものを採集する場所である。小屋の中をのぞくと、何やら黄色いモコモコした物が地面に霜柱のように浮かび上がっている。そもそもこのあたりは医薬品や染色に使う化合物であるミョウバンの産地として江戸時代から有名で、それが湯治場に発展したのだそうだ。

小屋の内部
小屋ののぞき窓から
中を見ると湯の花らしきものが地面に。

別府保養ランド
外観はごく普通の温泉施設だが、
中には濃い温泉異空間が
広がっている。
 明礬温泉郷の中で有名なのが「別府保養ランド」という入浴施設で、ここにコロイド湯や泥湯がある。建物はごく普通の鉄筋コンクリートなのだが、中はかなりの「濃さ」を漂わせている。泉質は酸性明緑礬泉、硫黄泉だ。広い休憩室から廊下を通ってまずはコロイド湯へ。
 コロイド湯は「コロイド硫黄を多量に含んでいて老化した皮膚をきれいに整える」効用があるという。湯は真っ白く濁っていて何か重い感じだ。温度はそれほど熱くは感じないが、じっくりと温かさが体に染み込んでくる感覚が気持ちいい。
 コロイド湯の浴室の横に泥湯の浴室へ降りて行く小さな通路がある。洗い場のないやや狭い浴室の底には、うすい灰色の湯というよりは泥そのものが満たされているかのようだ。湯から上がった人の体は灰色のペンキを塗りたくったようになっている。泥は適度な硫黄分が含まれた鉱泥と呼ばれる腐食粘土層で、水に比較して5倍の熱保有度をもつという。ここのように人間が快適に入れる鉱泥は珍しいそうだ。入ってみると、どっぷりと泥が体を包む。横ではぼこんぼこんと泥湯が噴き出していて、木の札に「マグマの加減で熱湯が噴き出すので離れるように」という意味の注意書きがあり、いよいよ「濃さ」の核心に来た感じがする。まさに地熱を泥を通して感じたのである。
COLUMN
 初めて泥湯に入った。「あ〜、やれやれいい気持ちだ」といった気分とは違った。まず泥湯の浴室に至る通路が石造りのトンネルのようで、何かのテーマパークの探検アトラクションを体験しているようだ。うす暗い浴室の底に満ちた泥に入るには笑顔ではなく、「健康になるぞ」という真剣な決意で入るのだ。そして、泥から上がって全身泥まみれになった自分は、前衛演劇の役者になったような妙な倒錯的な気持ちにさえなった。
(取材:岩間靖典)
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