温泉科学プロジェクト

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HOME 温泉ガイドデスク:温泉メカニズム体験記 第21回 石川県 和倉温泉
第21回 石川県 和倉温泉
11世紀頃に地震によって海中から温泉が噴出したのが始まりだという和倉温泉。能登半島で最大規模の温泉は七尾の海を臨み、有名な旅館の大きな建物が並ぶ。外傷や神経痛に効能があるという“しょっぱい湯”を体験した。
※写真:和倉温泉の源泉が湧き出ている「湯壺」。ひしゃくで飲んでみると、しょっぱい!

村人が海で羽を休めるシラサギを目撃
 もともとは1200年ほど前に温泉として開かれたのが始まりだといわれているが、それは現在の場所ではなく、山の麓に湧いていた。それが、永承年間(1046〜53)に地震が起きて源泉が閉ざされてしまい、行き場のなくなった湯が、七尾湾内に噴き出し、珍しい海中の温泉となった。
 海に湯が噴出したことが人間に分かったのは、シラサギが海で羽を休めている姿を、村人が目撃したからだという。その姿はまるで人が沐浴をしているようだったといわれている。初めは、潮が引いた時に湯をくみ上げて使っていたものが、七尾の城主畠山氏や加賀藩の前田氏が徐々に整備し、明治になって山を開いて、さらに旅館などに内湯が引かれるようになって、現在の温泉街になったそうだ。また、1963年にはボーリングによって新しい源泉も発見された。
 現在の七尾の海はとても静かだ。能登半島が日本海を、あたかも左腕で抱えるように包み込んでいるが、その中でさらに包み込まれているのが七尾湾だ。七尾湾には能登島が浮かび、湾内は北湾、西湾、南湾に分かれている。この西湾をすぐ目の前に見て、和倉温泉の温泉がある。良泉が湧き出ている他に、風光明媚というのは、温泉の条件としては最高だろう。
湯気が噴き上がる和倉温泉の“中枢”
 和倉温泉の中心ともいえる場所に、伝承のシラサギのモニュメントを配した「湯壺」と呼ばれる場所がある。源泉が流れ出ている場所の一つで、飲泉所にもなっている。シラサギのくちばしに挟んであるひしゃくで湯をくんで飲んでみる。しょっぱい。かなりの塩からさだ。かすかに苦味もあり、独特の風味もある。

湯壺の後側に、配湯施設と弁天社が
祭られている弁天崎公園がある。

弁天崎公園内にいくつもある源泉。
手前の六角形の源泉には
「和倉温泉第五号源泉」とある。
 この裏手、湯気が激しく噴き上がっているのは弁天崎公園。ここに源泉や配湯の設備がある。和倉弁天の社の周囲に、六角柱や円柱の形をした、高さ1メートルほどのコンクリートの固まりがある。それぞれに「和倉温泉第○号温泉」とあるから、これが源泉なのだろう。社を背にした正面にポンプ室のような建物があり、パイプが何本も周りをめぐっている。これが配湯の施設で温泉の“中枢”といえる。興味深いのは、配湯パイプのバルブの横、源泉が流れ込んでいる湯槽の上に、小さな祠があることだ。自然への畏敬や信仰の気持ちを表しているようだ。

源泉の配管が集中している場所に祠が祭ってある。
湯そのものが信仰の対象でもある。

配管のバルブ部分。
それぞれ「10号源泉」
「8号源泉」などと書いてある、
まさに和倉温泉の“中枢”。
 この弁天崎公園から目と鼻の先にあるのが、和倉温泉の共同浴場である「総湯」だ。現代風の建物の横にはやはり飲泉所がある。街のあちらこちらに掛け流しの飲泉所があるということは、湧出量が豊富なことの証でもあろうか。和倉温泉の湧出量は、毎分1600リットルにもなり、温度は89.1℃だ。この飲泉所にもザルが置いてあって、自分で温泉卵を作ることができる。

和倉温泉の共同浴場「総湯」。
大浴場、露天風呂、サウナなども整っている。

弁天崎公園内の飲泉所。
長い取っ手が付いたザルは、
温泉卵を作るためのもの 。
 ここに掲げてある看板には「飲める和倉温泉」と書いてあり、成分分析表も載っている。飲用の適応症「慢性消化器病、慢性便秘」、吸入療法(うがいなど)「慢性気管支炎、咽頭炎」とある。また、飲用の禁忌症として「腎臓病、高血圧症、その他一般にむくみのあるもの」となっている。総湯の玄関左横には、足湯もある。広々として清潔そうだ。中には大浴場と露天風呂などがあり、きっと地元の人だろう、何人かがたっぷりの湯にゆったりと浸かっていた。

総湯の前にも飲泉所がある。
飲用の適応症として
「慢性消化器病、慢性便秘」と書かれている。

総湯の玄関横にある湯量が豊富で
広々とした足湯。
利用はもちろん無料。
全国的に知られる高級旅館が並ぶ
 七尾西湾の海に面して、温泉宿が並ぶが、規模の大きなホテルが多い。その中でも特に知名度が高いのが加賀屋だろう。施設全体が大規模で、館内はまるで一つの街のようになっている。
七尾湾に臨む絶景に建つ加賀屋。
湾内の海は穏やかだ。
 浴室もまた、規模が大きい。男性の大浴場は「恵比須の湯」と呼ばれていて、文字通りの大浴場だ。驚いたことに、浴室の中にエレベーターがあり、これで各階を移動する。1階は恵比須の湯、2階は脱衣室と露天風呂、3階に「空中露天風呂」がある。加賀屋をはじめ、和倉温泉の多くの宿が、海を見ながら温泉に入れることを魅力としている。本当に七尾湾の穏やかな海を眺めながら湯に浸かるのは気持ちが良い。

加賀屋「恵比須の湯 空中露天」。
浴室内のエレベーターで移動する。

加賀屋の女性浴場「花神の湯」。
七尾湾を臨むながめがすばらしい。
(上3点写真提供:加賀屋)

露天風呂付き客室の湯。
「和」のものに取り囲まれて入浴する
心理的効果も大きいだろう。
 さて、どこまでも広がる景色と大きな浴槽とは正反対ながら、露天風呂付き客室の湯というのもすばらしい。一人きりや、家族、友人とだけの空間や時間というのも、人間の癒しには大切だ。いつでも気が向いた時に、誰の目も気にせずに湯に浸かる気分。源泉が引かれた個室の露天風呂に入るのは、温泉のもう一つの効果、リラックス効果も大きい。泉質は、ナトリウム・カルシウム−塩化物泉。食塩泉ともいわれる。主な効能は、神経痛、筋肉痛、関節痛、慢性消化器病、冷え症、疲労回復、慢性婦人病などなど。
 温泉の入り方の基本通りに、入浴後に身体に付いた温泉成分を洗い流さないようにすると、温かさが持続する。そのまま部屋でごろりと横になれるのがうれしい。同時に「翌朝はまた、大きな露天風呂から海を眺めよう」という気持ちになった。
COLUMN
 地殻変動によって湯が湧き出し、その湯に動物が浸かっているのを人が目撃する。苦労をしてその湯を人が利用するようになり、為政者もそれを助け、明治以降に近代化が進み、誰もが利用できるようになった。同じような経緯は多くの温泉地で耳にする。温泉はただそこに湧いているだけでは、湧水でしかなく、人の手が関わることで始めて温泉としての意味をなす。そこに、動物が一役買っている、というのも面白いものだ。
(取材:岩間靖典)
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