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温泉メカニズム体験記
鳥取県の中部、三徳川に沿い三方を山に囲まれた三朝温泉。花コウ岩の割れ目から湧き出す温泉は国内はもちろん世界でも有数のラジウム温泉として知られている。自然治癒力を高めるとされる「ホルミシス効果」を体験した。
※写真:鉄道で三朝温泉に入る場合にはここが入口となる山陰本線倉吉駅。
東西に細長い鳥取県のほぼ真ん中あたり、日本海から内陸に少し入ったところに三朝温泉の街がある。日本海から見ると三朝のあたりは、もう高原と言える場所で、近くには標高900mの三徳山がある。三朝の街の真ん中を流れる三徳川(別名三朝川)も、小さな流れではないが渓流と呼べるもので、晩春から初夏にかけては、カジカガエルの鳴き声が聞かれる。
山陰の代表的な温泉だけあって、街の至る所に「温泉らしさ」があふれている。街の中心は、三徳川に掛かる三朝橋のたもとにある温泉広場だ。バス停や観光商工センターがある広場に公共浴場「菩薩の湯」と飲泉所「白狼の湯」がある。ここには弓を持った武者と狼の銅像があるが、これは三朝温泉発見の伝説を表わしている。西暦1164年に、ある武将が三徳山に参詣した帰りに、仏の使いだというの白い狼を見た。この狼を見た場所に楠の古木があり、この大株の根元から温泉が湧き出していたという。
街の中心、観光案内所のある広場には共同浴場「菩薩の湯」がある。
菩薩の湯の前にある飲泉所は特に「白狼の湯」と呼ばれている。
三朝橋から河原を見下ろすと、よしずに囲まれた文字通りの露天風呂「河原風呂」が見える。男女混浴だが、いつでも無料で利用できる。温泉広場から、風情ある「温泉本通り」を歩くと、薬師を祭ってあるお堂があり、かたわらに足湯と飲泉所を備えた「薬師の湯」がある。ここから少し脇に入ると、三朝神社がある。どこの神社にもある手を洗う場所の水が、この神社では温泉になっているのだ。さすがに温泉の街だ。ここは「神の湯」と呼ばれ飲泉所にもなっている。街外れには、白狼伝説に由来する「株湯」があり、現在でも共同浴場として残っている。近所の方もよく利用しているようで、何とも素朴な雰囲気だ。
三徳川にある露天風呂「河原風呂」は
24時間無料で利用できる。
温泉広場から延びる風情のある中心街
「温泉本通り」。
温泉本通りにある「薬師の湯」は
足湯と飲泉所になっている。
三朝神社では手水(ちょうず)にも
温泉が使われている。
およそ800年前の白狼伝説に由来する「株湯」は今は共同浴場。
「株湯」の入口脇にある素朴な飲泉所。いつでも利用できる。
三朝温泉が名湯として知られているのは、放射能泉としてラジウムを非常に豊富に含んでいることによる。三朝温泉の泉質は、源泉によって主に、含放射能泉/ナトリウム・塩化物泉、含放射能泉/ナトリウム・炭酸水素塩泉、含放射能泉/単純泉の3つに分類されるが、いずれにしても放射能を含んだ温泉であるため、特別の効能がある。放射能泉は一般に、尿に含まれる尿酸を出すので「痛風の湯」と呼ばれ、他にも高血圧症、動脈硬化症、慢性皮膚病、慢性婦人病に良いとされる。
放射能を含むといっても、もちろん人体には無害だ。源泉に含まれるラジウムは、変化してラドンという物質になり空気中に拡散される。この微量の放射線を人体が受け取ると、細胞などが刺激を受けて働きが活性化されるという。毛細血管も拡張されるため新陳代謝も促進されて、免疫力や自然治癒力が高まるといった効果があることが知られている。この効果を「放射線ホルミシス効果」と呼ぶが、三朝温泉の特異な泉質はホルミシス効果を高める働きがあるということになる。
気化したラドンは、呼吸することで肺から血液に取り込まれるが、飲泉でも効果がある。街のあちこちに飲泉所があるのもそのためだろう。「白狼の湯」の飲泉所には、飲用の適応症として、痛風、慢性消化器病、慢性便秘、慢性胆のう炎、胆石症、神経痛、筋肉痛、関節痛といった表示がある。飲んでみると、わずかに塩味と、おそらくその他のミネラル分の味が感じられた。
三朝川に臨む温泉旅館「依山楼岩崎」。
依山楼岩崎の「回遊式大庭園風呂」の一部。
三朝川のほとりにある宿「依山楼岩崎」の湯に浸かってみた。屋外の庭園にさまざな形の湯が配置された「回遊式大庭園風呂」が有名だ。
内湯も大きく、庭を臨む大浴場の「逢山の湯」にまず入ってみる。ここには蒸気風呂もある。これは単なる蒸し風呂ではなく、蒸気によって空気中に拡散されたラジウムをめいっぱい吸い込めるようになっているわけだ。続いて外に出る。全体は大きく「右の湯」と「左の湯」に分かれていて、ぞれぞれ入れ替えで男湯と女湯になる。この時は左の湯を巡ってみた。庭木に囲まれた大きな泉水が、そのまま温泉になっている。寝湯や歩行湯をそれぞれ体験して、階段を昇ると足湯があり、ここをゆっくり歩いて「投入堂(なげいれどう)洞窟風呂」に入る。これは三徳山にある国宝「投入堂」を模したものだ。投入堂は急峻な崖の中ほどに「投げ入れ」たかのように造られたお堂のこと。洞窟風呂は、洞窟のような湯殿で湯気がこもるようになっているので、やはりラドン蒸気を吸い込むのに適している。
湯は無色透明でサラサラした感じだが、体を温める力は強く、湯から上がって、再び庭園風呂を回遊する頃にはホカホカとして発汗してきたほどだった。
いくつもある内湯の1つ「逢山の湯」。
ラジウム蒸気を体内に取り込むのに
効果的な蒸気風呂。
ラジウムもラドンも、もちろん目に見えるわけではないし、味やにおいがあるわけでもなかろう。しかし「体に良いラドンを吸い込んでいるのだ」と思うと、それだけで体が軽くなってくる気がするから、単純なものだ。だが、それは決して悪いことではない。都会の渋滞の道路際にいるだけで気分が悪くなってくるのとは正反対だ。この目に見えないラジウムを発見した科学者キュリー夫人の胸像が三朝温泉にあるが、夫人を讃えるのも、納得のいくことだ。
(取材:岩間靖典)
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